TOXICITY OF DENTAL METALS
歯科金属の毒性を
正しく理解する
歯科治療では、詰め物、被せ物、入れ歯、矯正装置、インプラントなどに、さまざまな金属が使用されてきました。金属には強度や加工性、薄く設計しやすいといった利点がありますが、口腔内で長期間使用される過程で、腐食、摩耗、金属イオンの溶出、アレルギー反応などが問題になる場合があります。
ただし、「歯科金属には毒性がある」という言葉だけで、現在お口の中にある修復物が全身の不調を引き起こしていると断定することはできません。金属の種類、合金の組成、使用部位、修復物の状態、患者さまの体質、症状が始まった時期などを分けて確認する必要があります。
IMPORTANT
「毒性」と「実際の健康リスク」は
同じ意味ではありません
毒性とは、ある物質が生体へ有害な作用を与える性質を指します。一方で、実際に健康への影響が生じるかどうかは、その物質へどの程度、どのような経路で、どれほどの期間にわたって曝露したかによって変わります。
ある金属元素が高濃度では有害性を持つとしても、歯科用合金として安定した状態で使用されている場合と、腐食や摩耗によって金属イオンや粒子が放出されている場合では、評価が異なります。
また、一般的な毒性とは別に、ごく少量の金属でも免疫反応が起こる金属アレルギーがあります。金属アレルギーは単純な摂取量だけでは説明できず、過去の感作、皮膚や粘膜の状態、原因となる金属の種類などを含めて評価する必要があります。
当サイトでは、金属の名称だけを根拠に危険性を断定せず、材料固有の性質、口腔内での状態、症状、検査結果などを総合して考えます。
RISK ASSESSMENT
歯科金属を評価する
4つの視点
歯科金属の影響は、材料名だけでは判断できません。少なくとも次の4つの視点を分けて確認することが重要です。
01
金属・合金の組成
歯科用材料の多くは単一の金属ではなく、複数の元素を組み合わせた合金です。同じ名称の材料でも、製品や製造年代によって組成が異なることがあります。
02
腐食・摩耗・溶出
唾液、酸性飲食物、温度変化、歯ブラシ、咀嚼、歯ぎしりなどの影響を受け、金属表面の状態が変化する場合があります。
03
曝露量と曝露経路
飲み込む、吸入する、皮膚や粘膜へ接触するなど、曝露経路によって生体への影響は異なります。金属が検出されたことと、病気の原因であることも同義ではありません。
04
患者さまごとの感受性
金属アレルギー、腎機能、既往歴、妊娠、年齢、服用薬などによって、材料選択で考慮すべき点が変わることがあります。
DENTAL METALS
歯科で使用されてきた
主な金属材料
それぞれの金属には異なる性質があります。「金属」という一つの分類だけで評価せず、材料ごとの組成、使用目的、腐食特性、アレルギーの可能性を確認します。
80
Hg
Mercury
46
Pd
Palladium
GOLD-SILVER-PALLADIUM
金銀パラジウム合金
金、銀、パラジウム、銅などを含む歯科用合金です。パラジウムだけでなく、合金に含まれる複数の元素と、実際の修復物の状態を確認します。
47
Ag
Silver
27 / 24
Co Cr
Cobalt Chromium
22
Ti
Titanium
MATERIAL DETAILS
金属材料ごとの
特徴と確認点
材料の名称だけで一律に判断せず、それぞれの組成、使用状態、症状との関係を確認します。
80
Hg
Mercury
01 DENTAL AMALGAM
アマルガムに含まれる水銀
歯科用アマルガムは、水銀と銀、スズ、銅などを混合して硬化させる修復材料です。硬化後のアマルガムからも微量の水銀蒸気が放出される場合がありますが、実際の健康リスクは、修復物の数、表面積、咀嚼や歯ぎしり、除去操作、患者さまの健康状態などを含めて評価します。
水銀そのものが持つ有害性と、口腔内に存在する硬化したアマルガムによる個人の臨床リスクは、分けて考える必要があります。アマルガムが入っているという理由だけで、原因不明のすべての症状を水銀へ結びつけることはできません。
状態の良いアマルガムを予防目的だけで除去すると、切削時に一時的な曝露が増える可能性や、健康な歯質を失う可能性があります。除去の必要性は、修復物の破損、二次むし歯、アレルギー、医学的必要性などを確認して判断します。
46
Pd
Palladium
02 GOLD-SILVER-PALLADIUM ALLOY
金銀パラジウム合金に含まれる複数の元素
金銀パラジウム合金は、金、銀、パラジウム、銅などを組み合わせた歯科用合金です。日本では詰め物や被せ物などに広く使用されてきました。
この合金を評価する際は、パラジウムという一つの元素だけを見るのではなく、合金全体の組成を確認する必要があります。製品や製造年代によって配合される元素や比率が異なることがあり、口腔内に装着されている修復物の正確な組成が分からない場合もあります。
パッチテストで特定の金属が陽性になった場合でも、口腔内の修復物が現在の症状の原因であると直ちに確定するわけではありません。修復物の成分、症状が始まった時期、ほかの金属接触なども確認します。
47
Ag
Silver
03 SILVER ALLOY
銀合金はアマルガムや金銀パラジウム合金とは異なります
歯科用の銀合金には、銀を主成分としてスズ、亜鉛、インジウムなどを含むものがあります。材料名に「銀」が含まれていても、アマルガムや金銀パラジウム合金とは組成も性質も異なります。
銀合金は、口腔内で変色や腐食が生じる場合があります。黒く変色しているから直ちに強い毒性が生じていると判断することはできませんが、表面の粗造化、修復物の破損、歯との境界の隙間、周囲のむし歯などがないかを確認する必要があります。
古い銀合金を交換する場合は、材料の変色だけでなく、修復物の適合状態、残っている歯質、交換によって削る範囲などを確認して治療方針を決定します。
27 / 24
Co Cr
Cobalt Chromium
04 COBALT-CHROMIUM ALLOY
コバルトクロム合金の強度と腐食特性
コバルトクロム合金は、強度、剛性、耐摩耗性などを持ち、入れ歯の金属床、クラスプ、補綴装置などに使用されます。薄くても必要な強度を確保しやすいことは、歯科材料としての利点です。
合金表面には保護層が形成され、腐食を抑えます。ただし、強い摩耗、表面の損傷、酸性環境、製造方法、研磨状態などによって、金属イオンや摩耗粒子が放出される可能性があります。
装着されているだけで全身毒性が生じていると断定することはできませんが、粘膜の炎症、接触部位の違和感、皮膚症状、合金表面の腐食などがある場合は、材料との関連を検討します。
22
Ti
Titanium
05 TITANIUM
生体親和性が高いチタンにも確認すべき点があります
チタンは表面に安定した酸化皮膜を形成し、一般に耐食性と生体親和性に優れた金属です。歯科インプラント、義歯、矯正装置、補綴装置などに使用されています。
ただし、生体親和性が高いという表現は、すべての患者さまで反応が起こらず、腐食や摩耗も一切生じないという意味ではありません。インプラント周囲では、機械的な摩耗、接合部の微小な動き、清掃器具、酸性環境などがチタン表面へ影響する可能性があります。
インプラントやチタン製装置に問題が疑われる場合は、アレルギーだけでなく、感染、インプラント周囲炎、過大な噛み合わせ、部品の緩み、異種金属との接触なども確認する必要があります。
※チタンの詳細ページURLは現在未確認です。URLが確定した後にリンクを設定します。
LEVEL OF EVIDENCE
確認されていることと
断定できないこと
確認できる問題
- 金属表面で腐食や摩耗が生じる可能性
- 条件によって金属イオンや粒子が放出されること
- 特定の金属に対するアレルギー反応
- 金属修復物の破損、変色、適合不良
- 金属除去時に切削粉や蒸気が生じること
個別評価が必要な問題
- 検出された金属と現在の症状との因果関係
- パッチテスト陽性金属と口腔内材料との関係
- 修復物交換によって症状が改善する可能性
- 交換による利益と歯を削る侵襲との比較
- インプラント不調や過敏反応の原因
一律には断定できない主張
- 銀歯があるだけで全身に毒が回っている
- すべての原因不明症状が歯科金属による
- 金属を除去すれば必ず病気が改善する
- メタルフリー材料なら問題が起こらない
- 検査結果だけで原因金属を確定できる
METAL ALLERGY
毒性と金属アレルギーは
分けて考えます
金属アレルギーは、金属から生じたイオンが体内のたんぱく質と結合し、免疫系が反応することによって生じると考えられています。一般的な中毒とは異なり、微量の曝露でも、すでに感作されている方では症状が起こる可能性があります。
症状は口腔内の接触部位だけに現れるとは限りません。皮膚科で接触皮膚炎、湿疹、掌蹠膿疱症などと診断され、歯科金属との関連を検討する場合があります。
パッチテストで陽性反応が出た場合でも、それだけで原因を確定することはできません。陽性となった金属が実際の修復物に含まれているか、症状の経過と一致するか、ほかの曝露源がないかを確認します。
確認する主な項目
- 皮膚科などでの診断内容
- パッチテストの結果
- 症状が始まった時期
- 口腔内にある金属材料
- 修復物の成分や製作記録
- アクセサリーや職業上の金属接触
- 金属以外に考えられる原因
REMOVAL OF METALS
金属を外すことにも
リスクがあります
金属製の詰め物や被せ物を除去する際は、修復物を切削する必要があります。除去時には金属粉、切削片、エアロゾルなどが生じるため、注水、口腔内バキューム、口腔外バキューム、防護などを行いながら処置します。
修復物の下にむし歯が進行している場合、除去後に想定より多くの歯質を失っていることが分かる場合があります。歯の神経に近い場合は、治療後にしみや痛みが生じたり、根管治療が必要になったりする可能性もあります。
症状との関連が確認されていない複数の歯を一度に交換すると、どの歯や材料が症状に関係していたか評価しにくくなる場合があります。治療の優先順位、交換する範囲、使用する代替材料を事前に検討することが重要です。
状態が良好な修復物を、金属であるという理由だけで一律に外すのではなく、交換によって得られる利益と、歯を削ることによる不利益を比較します。
ASSESSMENT FLOW
歯科金属の影響を
確認する流れ
-
STEP 01
症状と経過を整理
症状の部位、始まった時期、歯科治療との時間的な関係、既往歴、服用薬、生活環境などを確認します。
-
STEP 02
口腔内の材料を確認
詰め物、被せ物、土台、義歯、矯正装置、インプラントなど、使用されている材料と状態を確認します。
-
STEP 03
修復物と周囲組織を診査
腐食、摩耗、破損、二次むし歯、歯周病、粘膜病変、噛み合わせなどを診査します。
-
STEP 04
医科の検査結果と照合
金属アレルギーが疑われる場合は、皮膚科などで行われた検査結果と口腔内材料を照合します。
-
STEP 05
治療の利益と侵襲を比較
除去や交換によって期待できる利益、歯質の削除量、代替材料の特徴、治療後の管理まで検討します。
CONCLUSION
「金属を使わないこと」だけを
治療の目的にしない
メタルフリー治療には、金属色が見えない、金属アレルギーの原因となる元素を避けられる、天然歯に近い色調を再現しやすいなどの利点があります。
一方、セラミック、ジルコニア、コンポジットレジン、ファイバー材料にも、それぞれ破折、摩耗、脱離、変色、接着の劣化などの可能性があります。金属を使用しない材料であれば、どの歯にも適しているわけではありません。
重要なのは、現在の修復物に実際の問題があるか、症状との関連が考えられるか、交換によって歯をどの程度削るか、代替材料がその部位の噛み合わせへ適しているかを確認することです。
歯科金属の毒性を過小評価することも、必要以上に恐れることも避け、確認できる情報をもとに治療方法を選択します。
